自衛隊機の緊急発進(スクランブル)頻度と領空侵犯件数から言えること(2004年度~2016年度)

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緊急発進(スクランブル)

自衛隊機の緊急発進回数は、2016年度に過去最大数を記録した。
年度別推移で緊急発進が高頻度だったのは1970年代後半~1990年代前半の米ソ冷戦の時代。冷戦終結と共に頻度は急速に低下したが2000年代後半から再び上昇し、2016年は冷戦時代の最大値であった944回をはるかに上回った。
ただし、緊急発進の条件は客観的な基準だけではなく主観的な要素が含まれているため、緊急発進回数が脅威の程度とは必ずしも一致しない点に注意が必要だ。
緊急発進は、日本が設定した防空識別圏内に侵入した航空機がさらに領空内に侵入する恐れがある場合に行われる。このため、実際には領空侵犯の可能性が極めて低いにも関わらず、自衛隊側の過剰反応によって緊急発進が行われることは少なくない。



領空侵犯の頻度がこれを裏付けている。

領空侵犯

領空侵犯頻度は実際に日本領空を侵犯した回数であり、自衛隊側の主観が入り込む余地がほとんどなく絶対的な頻度の少なさが難点だが客観的な指標と言える。
2004年度から2016年度の間の領空侵犯の件数は6件。うちロシア軍機が5、中国軍機が1である。年度別の領空侵犯頻度は、緊急発進頻度とはほぼ無相関だ。
同期間内の国別の頻度も、領空侵犯のロシア:中国比が5:1であるのに対し、緊急発進のロシア:中国比は、3253:3113であり、全く異なっている。
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領空侵犯1件あたりの緊急発進数(以下、V/S比)

2004年度から2016年度までの13年間について、ロシアのV/S比は651、中国のV/S比は3113 だ。
V/S比が意味するのは領空侵犯リスクに対する過敏性で、この場合、自衛隊はロシアのリスクよりも中国のリスクの方に過敏に反応していることを示している。
あくまで対ロシアとの比較ではあるが、自衛隊は中国に対して過剰に緊急発進を行っていることが示唆されており、緊急発進件数が脅威の程度を示しているわけではないことに注意が必要だ。
中国に対する緊急発進頻度が増えるのは、2010年からで民主党政権になったことがきっかけとなっている。しかし、民主党政権下での領空侵犯は2012年12月13日の中国軍機によるもの1件のみで、この時既に衆議院は解散され投票日を3日後に控えていた。それも領空侵犯とされたのは、尖閣諸島魚釣島南部の領海上で中国との領有権争いのある場所だった。
これ以外に中国機による領空侵犯は起きていないが、民主政権崩壊後に緊急発進件数は急速に増加していく。

中国の脅威が実際に増加したという要素以外に、中国の脅威を強調したいという自衛隊側の主観的要素があることは否定できない。
自衛隊も官庁組織である以上、その予算獲得のための組織益の考慮は避けられない。緊急発進件数の意味を考える際には、これらを踏まえた検討が必要であろう。

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